環境測量設計

建設業

技・サービス

しごと紹介

1. 実は、暮らしのすぐそばにある仕事

「ちょっとコンビニで、牛乳買ってきて」
「こっちの道から行く方が、近いよね」
何気ない日常のやりとりの中、私たちは無意識のうちに何かを測りながら、比べながら暮らしている。

例えば地図も、今や車の運転になくてはならないカーナビも、元々は測量データや航空写真の処理によるものだ。
市位勝宏さんは、そんな測量の世界に身を置くことおよそ40年のキャリアを誇るベテラン測量士。関わった現場は、記憶しておける数をはるかに超えた。

2. まちづくりは、測量から始まっている

学生時代、数学の授業で誰もが一度は学んだ三角関数(サイン・コサイン・タンジェント)。測量士とは、この三角関数を基本に、土地の位置や形状を測る仕事だ。

例えば、まっさらな何もない場所に道を造る時。老朽化した橋を架け直す時。まず調査に取りかかるのは、測量士。土地の位置、高さ、長さ、面積を、専門的な測量技術を使って測ることからスタートする。
つまり測量とは、土木建造物を建設する際の最初の大仕事。その結果によって、開発計画や建造物の建設条件が決まるため、社会的にも重要かつ責任の大きな仕事なのだ。

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現場では、角度や高低差を測る機械を駆使し、さらに光やレーザーを使って距離を測り、基礎データを収集する。最近では人工衛星の電波を利用したグローバル・ポジショニング・システム(GPS)測量をはじめ、多くのハイテク機器が導入され、より簡単に正確な解析が可能になっている。こうした測量の効率化が進んだことで、女性測量士の進出も増えて来たという。

「測量士には、それぞれ専門分野があります。私は『現況』といって地形を中心に行う測量と、基本の測量方法を活用し目的に合わせて組み合わせる『応用』測量が専門で、主に道路や河川の測量を行っています」

街中、山、海峡など、それまで何もなかった空間に、ダムや橋、道路、鉄道、トンネルといったライフラインが整備される背景には、必ず市位さんのような測量士の仕事が活かされている。どんな建築物、構造物も、測量なしに建設することはできないのだ。

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3. データを活かすのは、やはり人

「求められたことに対して、相応のデータが入っていることが重要です。データが多ければいいというものではなく、取り過ぎてもダメなんです。相手はどんなデータが欲しいのか? 希望にきちんと応える測量を行い、相手が求めていることを察して提示する必要があります」

さらに、測量はただ測ってデータを集めるだけの仕事ではない。収集したデータを元に位置や面積などを算出し、図面に起こす作業を行う。

「仕様書にかなった図面を作らなくてはいけません。私が作る測量図面を元に建造物の設計図面がひかれ、現場で工事が進みますから」
安全で効率的な工事設計を進めるには、正しい知識を持った測量士の存在が欠かせないのだ。

最も求められるのは、当然のことながら測量の正確さ。信頼のおけるデータを抽出することだという。
「測量に誤差ゼロはありません。『絶対』ということはないんですね。観測データは人の目や環境条件、気象条件等により変わってきます。ですから、①取得データが、後に続く作業の使用目的に沿った使いやすいデータであること。②誰が再度観測を行っても、制限値の範囲内に入っているデータであること。さらに③制限値範囲内であっても誤差が大きい場合は、その誤差の原因をしっかり究明できる腕をもっていること。これら3つの要件をめざして初めて、質の高い仕事ができるんだと思っています」

4. ドローンの可能性とともに、さらなる社会貢献を

さらに仕事の質を高め、さらなる社会貢献をめざすため、市位さんは新規事業の展開を見据えたものづくり補助金を申請。そこで採択された事業は「三次元レーザースキャナとUAVによる、高度測量体制の確立と新事業展開」。

通常の測量は、距離と角度から点を求め図面化する。市位さんがめざす高度な測量体制とは、最小限の人数で測量できる3次元レーザースキャナや無人航空機を使用して、撮影写真から3次元データを起こして測量するというもの。その手段に選んだのがUAV、いわゆるドローンだった。

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「例えば、ドローンで撮影した観測地の写真を3次元化した際の誤差は、2ミリ~5センチ以内です。かかわる人手が少なくて済むうえ、人が入れない複雑な地形の測量も可能。カメラの性能にもよりますが、より正確なデータが抽出できます」

そして市位さんは今、このドローンの3次元画像を応用した社会貢献事業を模索している。
「例えば、震災で被害に遭った熊本城。被災前の画像が残っていない中で、石垣を復元する修理は大変です。石垣の石の復元は、修理前と同じ石を同じ場所に戻す必要があるからです。姫路城は、現在の状況を画像に残しているそうです。
また、古墳調査の現場でも画像が利用されています。ひとつずつの石を、ドローンで撮影した3次元画像でチェックしているそうです。ドローンの3次元画像が応用できることは、きっとまだまだあります」

私たちの生活に欠かすことのできない、測量という仕事。決して華やかな目立つ仕事ではないが、すべての始まりが「測る」ことだと考えると、私たちの暮らしを支える建造物を、この世に生み出す根幹を担う重要な役割だということはすぐにわかる。

「橋や道路といった建造物たちが、目に見える形になって残ってゆきますから、やりがいのある仕事です」
広げた地図に、自分の仕事が記されている――。社会への貢献の証として。

技・サービス紹介

災害時の被災状況の把握や、スポーツシーンでの空撮動画による戦術分析、さらに配達サービスなど、いろいろな生活場面での実用化が進んでいるドローン(UAV: Unmanned aerial vehicle・無人航空機)。

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「ドローンには、まだまだいろんな可能性があります。ドローンを使って何をしようか、みんなが考えているんです。私も空撮事業として、測量だけでなく多方面への活用方法を模索しているところです」

ドローンによる空撮画像だけではなく、3Dスキャナや3Dプリンタを組合せて利用することにより、様々な顧客のニーズに応えることができると市位さんは言う。

3D(3次元)が流行し人気を集めている現在、ドローンの空撮画像を応用できれば、もっと地域への貢献につながるはずだと市位さんは考えているのだ。

環境測量設計5例えば、空き家対策。
「今の空き家の様子や状態を画像で確認・判断できれば、わざわざ現地に足を運ばなくていいわけです。遠方に住む家主のご家族にでも、簡単に説明ができます。また、町の住宅状況を把握・管理するのにも便利です。屋根やとゆの修理、瓦の吹き替えなど、リアルでわかりやすい写真のため、ひとつひとつの状況把握に力を発揮するはずです」

また、上空から見ることで森林の植生区域調査が身近になり、適正な維持管理に役立つのではないかという発想も。
「例えば、熊が出没するのは針葉樹林ばかりだから、ここには広葉樹を植えようとか……。人と動物の住み分けに役立つのではないかと思っています。本数管理も簡素化できますし」

さらに、農業の法人化により管理面積が拡大し、多くの人手が必要になっている農作業現場。
稲や野菜の発育状況や害虫発生状況を、ドローンによる空撮画像で管理できる一方、農薬散布、肥料散布にドローンを飛ばせば、従来の無人ヘリコプターでは対応が難しい田んぼにも散布が可能になる上、人員の簡素化にも貢献。

「まさに、IOT:モノのインターネットですね。この他、放棄地対策にも活用できますし、空中写真を3次元データ化することで観光サービスにも活かせます。ドローンを使えば、人手も時間も簡素化が可能。これからの時代にもってこいのサービス事業を形にできるはずです」

ブーン、ブーーーン……

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蜂の羽音のような振動音を立てながら、上空をめざして旋回するドローン。またたく間に空へ上がったかと思うと、左へ移動して静止。すると次の瞬間には高度を下げ、滑るように右へ動いてクルリと輪を描き、地面にまっすぐ降り立った。その様子はまるで、操縦士である市位さんに忠実に従う生き物のようだ。

5年後、10年後には、完全に自動運転・自動操縦化になるだろうと言われているドローン。
心強い相棒を得た市位さんは、地域社会へのさらなる貢献という挑戦を続けてゆく。

経営者紹介

市位勝宏 氏

測る・比べるは、生活に密着したすべての基本です。

封筒に資料を入れる時、この長さで入るかなと無意識のうちに測っていたり、2本の鉛筆をどっちが長いか比べていたり…。そんなところからすでに『測量』って始まっているんです。世間的にはあまり知られていない仕事ですが、小学生から教えていただきたいくらいです(笑)

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16才で大工の世界に飛び込みました。親戚に大工が多くて、自分にとって身近な仕事だったんです。ところが腰を痛めてしまって、続けることができなくなってしまいました。そんな時に、学校の先生の紹介で土地家屋調査士の事務所へ入りました。

土地家屋調査士というのは、土地や建物がどこにどれくらいあるのか、境界がどこかといったことを調査したり測量することで、所有者の代わりに登記の申請や手続きをする仕事です。ここで出会ったのが、測量士の仕事だったんです。

土地家屋調査士の資格を取得するために、まずは測量士の資格を取ろうと測量の専門学校へ一年間通いました。測量の仕事をきちんと理解してから、土地家屋調査士をめざそうと思ったんです。
結局、そのまま測量士として大阪や地元の測量会社に就職することになり、平成16年に独立して現在があります。18才から始めて、およそ40年になりますね。

測量の仕事って、仕事そのものはどこまでも縁の下の力持ち仕事です。測量の成果は、一枚の測量図面にしか現れません。しかも、その出来栄えは専門家でないとくみ取れませんから。
それでも、その測量図面をもとに設計図面ができあがり、現場に橋や道路や建物ができ上がってゆく…。
完成した時は達成感でいっぱいです。「自分がやった仕事なんだ!」って素直にうれしいです。
敢えて仕事の「醍醐味」と呼ぶとすれば、成果が建造物という目に見える形で残ってゆくので、自分の仕事が認められたと感じられることでしょうね。

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測量は、現地で行う仕事です。しかも、これから橋や道路や建物を建てようという現場ですから、人が入るには厳しい所も多々あります。
ダム建設の現場では、ウエットスーツを着て測量しました。川の流れのきつい所を横断しなくてはいけないため、いつ流されてもいいように体にロープを巻きつけて測量したこともありました。

中でも印象深い仕事は、災害現場での測量です。
災害が起こった時の測量は、時間との戦いなんです。昼間は現場で測量。そのデータをもとに、その日の夜のうちに測量図面を作ります。そして早朝から、また現場で測量。この繰り返しなんです。寝られない日が続きます。というのも災害時、国に被害状況を報告し公的支援を受けるためには、被災から2ヶ月以内に国庫負担申請をしなくてはいけません。だからみんな早く測量図面が欲しいんです。

時には、川にボートを浮かべて測量をすることもあるんですが、その上流では警察が行方不明者の捜索をしているという現場もありました。
噴火して土砂崩れが起こった山のふもとや、大雨で天井まで水が出た現場、原子力発電所など、様々な現場で測量を経験してきました。

測量の仕事は、ふたつと同じ現場がありません。毎回場所が違いますから、仕事の内容が同じでも状況によってすべてが変わるんです。ひとつひとつが、新しい経験なんです。
いろいろな社会経験を積ませていただて、測量士をやって来て良かったと思っています。

特に独立してからは、仕事の範囲もお付き合いの幅もうんと広がりました。会社に勤めていた時には感じられることの範囲が狭かったですね。もっと早く独立しておけばよかったと思います(笑)。

これまでは行政関係の測量の仕事が多かったのですが、仕事の幅を少しずつ広げようと、民間の建築事務所や建設コンサルタント会社ともつながりを増やしています。
それにはドローンが活躍してくれると思っています。観光事業の分野にも新しい提案ができるのではないかと、今から楽しみにしているんです。

測量だけの世界から飛び出して、新しい可能性を広げてゆこうと思っています。

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ライター:内橋 麻衣子