セントラル フットウェア サービス

サービス業

しごと紹介

1. 整形靴技術に基づいたオーダーメイドシューズ専門店

多可町加美区と八千代区を結ぶ県道143号線を折れて八千代中学校の裏手に周り、山側に視線を向けるとヴィンテージテイストの大きな看板が目に入る。

2017年2月にオープンしたオーダーメイドシューズ専門店「セントラル フットウェア サービス(CENTRAL FOOTWEAR SERVICE)」(八千代区中野間)だ。

のどかな田園風景にひと際目を引く店の前に立ち、同じくビンテージ感あふれる扉を開けると……奥にはこだわりの空間が広がり、取材班は心を躍らせた。

たとえば入口正面に鎮座した靴用ミシン。

「中古で購入したミシンに赤茶色の指定色で塗装してもらいました。この色のミシンは世界に一台しかないはずですよ。そのほか電球にしても、何気なく置いているタイプライターにしても、すべてこだわりの品で埋め尽くしています」

代表の吉田昇平氏がそう説明するように、店舗のあらゆるモノに意図がある。

「なぜそこまでこだわるのか――それはオーダーメイドシューズという世界にひとつだけの商品を扱うからです。お店に入った瞬間に『すごいですね』と喜んでいただける雰囲気づくりを大事にしています」

さらにもう一点、店づくりの大切なポイントがある。吉田氏は続ける。

「お客様にご満足いただくのも当然ですが、同時に自分自身が最高の気持ちになれる空間を求めています。職人の僕自身が楽しんでつくらなければ、いい靴ってできないと思いますから」

そんな吉田氏が代表を務める「セントラル フットウェア サービス(以降、C.F.S.)」は、ヨーロッパの整形靴技術に基づき、一人ひとりの足や身体の状態に配慮したオーダーメイドシューズの製作・販売を手がけている。

「整形靴」とは、足にトラブルを抱えた人のために医学的知識を用いてつくられた靴を指す。先天的に足に変形が見られる人や、事故などを理由に足にトラブルを持つ人などが主な対象で、一人ひとりの足の形状や症状に合わせて製作する。

整形靴の製作方法はいくつかある。足の型を採って木型からつくる方法、既存の木型をベースにつくる方法、既存の靴を加工する方法が代表的だ。

「さらに体重を支えるインソール(中敷き)のみを製作する場合もあります。個人の足に合わせたインソールを入れることで足の裏にかかる圧を調整したり、変形を矯正したりできるんです」と吉田氏は解説する。

経営者紹介

1. 自分の作品が残る仕事を

生まれは兵庫県の阪神地域で、3歳から西脇で育ちました。父親はサラリーマンで忙しく、子どもが寝静まった頃でないと帰ってこられない家庭で育ちました。

大学卒業後は一般企業に就職したのですが、平日はホテル住まいで各地に営業に回る日々……。ある日ホテルで目を覚まし、「俺はいま何県におるんや?」と思った瞬間、「もう辞めよ」と決意しました(笑)。結局、サラリーマンは1年続きませんでしたね。

その後、25歳の時に西脇市の喫茶店で調理師として働き始めました。最終的に調理師免許も取得したのですが、いずれ喫茶店で独立するかどうかを考えたとき、将来像が描けなかったんです。子どもの頃にサラリーマン家庭で寂しい思いをしてきたのに、喫茶店を始めたら結局自分も休みなく働くことになるやないかと思って。

じゃあ俺は何がしたいのか――そう考えたとき、自分がつくったものを世の中に残したいと思いました。飲食店の場合、心を込めて料理をつくって美味しく食べてもらっても、料理自体は一瞬でなくなってしまいます。そうではなく、お客さんの手に渡ったとしても、自分の作品が残る仕事がしたいと思ったんです。

2. 27歳でゼロからの挑戦

いろいろ調べると、義足や義手をつくる義肢装具士という職業を見つけました。そこで三田市にある神戸医療福祉専門学校に資料請求してみると、整形靴科という学科があるのを知って。整形靴職人を養成する日本で唯一の専門学校ということも分かり、「よしチャレンジしてみよう」と。

そしてオープンキャンパスに参加し、靴づくりを体験した結果、「これならいける」と整形靴技術者を目指す決意をしました。専門学校に入学したのは27歳で、卒業したのは30歳になる年。よくチャレンジしたと思いますよ。

3. 自然あふれる環境で子どもを育てたい

卒業後は京都市内の義肢装具会社に就職し、整形靴の製作を担当するようになりました。希望通りの職業につけたわけですから恵まれていると思います。

ですが結婚して子どもが生まれると、地元に戻りたいという気持ちが強くなっていきました。幼稚園から私立に通わせ良い大学を目指す――そんな都市部の子育て観が、自分のスタイルではないと思ったからです。それよりも自然あふれる環境のなかで、のびのびと子育てをしたいなと。

そこで兵庫県の会社に片っ端から電話し、三木市の義肢装具会社に転職。同時に妻の多可町の実家に仮住まいをさせてもらい、三木まで通う生活が始まりました。その後、地元に住むなら自分たちの家がほしいと思い、多可町でビルトインガレージ付の平屋建ての自宅を建てました。

4. 独立の引き金になった母校の教員募集

転機は一本の電話です。三木の会社に転職して2年ほどたったとき、卒業した専門学校から連絡があり、「教員を募集しているから受けてみないか」と言われたんです。人を育てることにも興味があったので、三木の会社を思い切って退職し、モノ(靴)をつくる仕事に加えてヒト(職人)を育てる仕事にも携わることになりました。

独立開業を具体的に意識したのもその時ですが、京都で働いていたときから「いずれ自分の店を……」という夢は持っていました。工場内のいち製作者ではなく、お客さんと対峙し、その人のニーズに合った靴をご提供して喜んでいただきたい――そんな思いを抱いていたからです。

その独立の夢が、教員の話をいただいたことで、グッと引き寄せられたと思いました。教員としてしっかり指導するのはもちろんですが、自分の技術を磨き直して将来の独立に備えようと明確な目標ができたからです。

教員になってからは指導のかたわら、専門学校のアンテナショップの靴製作を手伝わせてもらい、クオリティをさらに高める努力を続けました。そうやって準備を重ねたうえ、2017年2月に念願のオープンを果たしたんです。

5. 多可町で実現した、二足のわらじ&職住一体の理想の暮らし

多可町は、僕にとって最高の環境なんです。まず多可町の自宅のビルトインガレージを改修して店舗にしたので、家族の時間をしっかり確保しながら大好きな空間で自分の思うような靴づくりができています。

さらに三田市の専門学校まで通いながら教員の仕事を続けられますし、安定収入があることでスタートアップ時の資金的な不安も軽減しました。収入源がない状態で店を出すのは大変ですから。

加えて自然豊かな多可町で家族と住まいながら、子どもを育てられる安心感。これだけの環境は都市部では手に入らないでしょう。ほんと最高です。やりたいことを存分にさせてもらって。

今後は地域と深くかかわりながら、お世話になっている多可町をさらに盛り上げる活動にも力を入れていきたいですね。

新たなしごと・取り組み

1. 「会話」から始まる靴づくり

白いメガネをかけた大きな兄ちゃん――。

C.F.S.の代表・吉田氏は、ご近所さんからもっぱらの評判だ。たかテレビに出演した際には後日、近所の女性から声をかけられた。

「テレビに出てた人やね。足が悪うて、一度相談してもええかな」

地域の人に覚えてもらい、出演効果は上々といったところ。「そのために一生懸命肉つけて、こうやって白いのん、かけてるんですよ」

そう屈託なく笑う吉田氏は、いわゆる職人気質の印象とは正反対で、気軽に話しかけられる明るい雰囲気が素敵だ。

「お客さんが履きたい靴をかたちにするために、何より会話を大事にしているんです。デザイン的な好みはもちろん、足の悩みにしっかり耳を傾けてこそ、最適な靴をご提案できるわけですから」

さらにオーダーメイドシューズは購入して終わりではなく、靴づくりからその後のメンテナンスに至るまで、顧客と長い付き合いになるケースが多い。

「だからこそ会話を通して僕のことを知っていただき、信用してもらわないといけない。簡単に購入できる価格帯の靴ではありませんから、信用していただいて初めて成立する仕事なんです」

2. デザインも良く履き心地も快適――両者両得の靴づくり

そんな吉田氏が大切にする靴づくりのポイント――それは「見た目良し、機能良し」だ。

同社の特徴は、整形靴の技術と知識を活かした靴づくりにある。吉田氏は自身が整形靴技術者であり、同時に日本で唯一、整形靴技術が学べる神戸医療福祉専門学校の教員も務める。いわば整形靴のスペシャリストとしての技術と知識を注ぎ込み、オーダーメイドシューズを製作しているのだ。

「デザイン重視の靴は機能面が不十分、一方で機能重視の健康靴はデザインがイマイチ――そんな悩みを持たれているお客様が少なくありません。当社はデザインにこだわりながら履き心地も快適、そんな両者両得の靴づくりを得意としています」

C.F.S.の靴づくりは次の3パターンとなる。

1:木型から製作する「フルオーダープラン(がいよう – GAIYOU -)」
文字どおり、一人ひとりの足のかたちに合った木型づくりから始めるフルオーダープラン。播州弁で「具合のよい。都合のよい」を意味する「がいよう」をプラン名にするなど遊び心がきいている。

靴づくりは、吉田氏自身がすべての工程を手づくりで仕上げていく。まずフットプリントを用いて足底圧や足の形の特徴を確認し、メジャーで採寸を行う。そして時には石膏包帯も使って足型を取り、その型をもとに木型をつくることから始める。

「製作工程で最も大事にしているのが木型づくりです。いくらカッコいいアッパー素材を使っても、木型がその人に合っていなければ完成した靴も合いません。お客様の足にぴったりフィットする靴をつくるためにも、削り慣れているヨーロッパ製の木型を使っているんですよ」

木型が完成すれば、アッパー素材やソールの形状の好みなどを顧客からヒアリングし、手作業で仕上げていく。

ちなみに完成した木型は店舗に保管されるため、2足目からは自分専用の木型をもとに新しい靴のオーダーが可能だ。

2:既存の木型をもとに製作する「セミオーダープラン(ここっちょい – COCCOCHOI -)」
既存の木型の中から顧客の足の形状と、好みのデザインに合った木型を選んで製作するプラン。既存の木型を使う以外はフルオーダーと同じで、要するに初回に木型を製作するかしないかの違いになる。実際にはフルオーダーで注文する人が多いそうだ。

3:中敷きを製作する「インソールオーダープラン(らっきゃ – RAKKYA -)」
インソール(中敷き)のみを製作するプラン。フルオーダーと同様に足型を取り、その型をベースにインソールを製作する。自分の足に合ったインソールを使うと足裏にかかる体重が分散され、負担が大きく軽減するという。

先ほど紹介した近所の女性には、オーダーメイドのインソールを製作中(2017年10月時点)だ。骨折の影響で足が極度に変形し、床の上を裸足で歩けなくなっていたという。

「その方の要望は、ご主人と一緒に大好きな温泉に行くこと。足裏の骨が洗い場などの床に直接当たり、痛くて歩けないようなんです。水に濡れても影響の少ない素材探しも含めて、いまオリジナルのインソールを製作しているところです」

3. 機械設備もヨーロッパの一級品を

冒頭でも触れたように、C.F.S.の店内はこだわりで詰まっている。ミシンやタイプライターなど以外にも、たとえば店舗と自宅を区切る壁には、沖縄から取り寄せたコンクリートブロックを使っているという。

「自宅との区切りは必要ですが、風通しも良くしたかったんです。そのとき閃いたのが沖縄で見た花ブロックでした。亜熱帯気候の沖縄では、日よけと風通しを兼ねてくり抜かれたブロックが使われます。そのブロックを工務店さんに取り寄せてもらったんです。資材費よりも送料の方が高くつきましたけどね(笑)」

こうして店舗内外観ともに雰囲気づくりに力を入れるとともに、靴づくりに使う機械設備もすべてヨーロッパで普及している一級品を揃えた。

4. 地域のお年寄りを足元から元気にしたい

2017年2月のオープン以降、口コミで顧客が増えて滑り出しは順調だ。お店を開いているのは土曜・日曜・月曜・火曜の4日間(要予約)で、水曜・木曜・金曜は教員をしている。多可町でオーダーメイドシューズの専門店を経営しながら、教員としても活躍する――そんな新しいワークスタイルを多可町で体現しているといえるだろう。

今後の目標は、「地域のお年寄りの方々に元気に歩いてもらう」こと。

「多可町は敬老の日の発祥の町ですし、足元からお年寄りを元気にしたいんです。足に合った靴を履けば歩くこと、生活することが楽しくなりますから。そのために靴の選び方や履き方などをお伝えする講習会も開きたいですね」

もう一つの目標は、「多可町で整形靴技術者を育てる」こと。

「学校では複数の生徒が相手なので、教えられる技術に限りがあります。それよりも一対一で技術を徹底的に教え込み、将来独立できるほどの人材を育てたいんです。そうやって〝自分の分身〟を育て上げ、一人でも多くの人に歩く喜びを提供していきたいですね」

ライター:高橋 武男